そのままで良かった

 

 

 

 

徐々に明るく色付く朝。

休日にアラームは不要。

ベッドから弾き飛ばされている布団を拾い

しがみついて再び寝入る8時過ぎ。

 

 

 

距離感。

上手く取るにはどうしたらいいだろう。

あれこれと思案しながら

淹れ立てのカフェオレで舌を焼く。

甘い物は憎めないからもどかしい。

 

感受性は豊かな方。

というよりもストレスには脆弱で

ユーモアや機知を持ち合わせていないからこそ

傷付きやすく、繊細で、神経質だ。

 

 

幸か不幸か

挫けるほどの困難を知らない。

だからこそ耐性はないのも事実だ。

 

感情には巻き込まれたくない。

巻き込まれやすさを仮に優しさと呼べど

貫き通すほどの忍耐さはない。

 

 

関心の無いものであるならば

距離を取る手立てはあるし

仕事だと割り切ることが出来れば

極度に感情移入することなく

安らかな眠りにつくことが出来るだろう。

 

 

悲劇はいつだって俯瞰的でありたい。

そりゃあそうだ。

 

美談として語ることが出来るのは

当事者では無くなったからだ。

ずるいよな。

 

 

 

ジレンマを感じるたび

神社での雨宿りを思い出す。

「帰りたくない」と泣いていた少女に

何も出来なかった不甲斐なさを思い出す。

 

下校帰りに立ち寄る公園。

錆びたブランコに揺れて

輪郭が曖昧になってゆく夕暮れ。

 

「楽しみ」があるからこそ

別れの後の淋しさも増す。

希望があるからこそ

無理にでも縋りたくなる。

そういうものだとも思っていた。

 

「助けたい」と強く思うたびに

「助けることの出来ない自分」が浮き彫りになっていった。

もどかしさに耐えきれず

「逃げ出したい」とさえ思うようになっていた。

 

理論武装した自分もいずれは錆び付いて

いつしか「問題」ばかりに目を奪われては

目の前の大切な人を見失っていた。

 

あの時の選択は正しかったのだろうか

他に何か出来ることは無かったのだろうか

時折思い巡らすこともあるけれど

結局何も分からないまま。

 

きっとやり直すことが出来たとしても

同じく葛藤し、遣る瀬ない気持ちを抱き続けるだろう。

「帰りたくない」と悲壮感が漂う不器用な笑顔に

「大丈夫だよ」と言うことしか出来ないだろう。

「バイバイ」と手を振る強がりに

「またね」と言うことしか出来ないだろう。

 

でもそのままで良かった。

 

そのままで良かったのにな。