溶けゆく粉雪に体温を知る

 

 

夜勤明けの朝。

疲労から生まれる高揚感は当てにならない。

それに伴う空腹感も決して当てにはならない。

 

空腹感を頼りに立ち寄ったコンビニでは

「いくらでも食べられる」といった

空っぽな万能感が生まれる。

空腹時に買い込むコンビニ弁当は

力量に見合わず、食べきれず。

後悔ばかりの残渣物。

 

だからあれほど言ったのに。

やはり夜勤明けの高揚感は当てにはならない。

 

気分の変動が著しいときには

曖昧な受諾はしない。

無計画な約束はしない。

分かっているんだけれど。

 

 

 

 

暗がりの井の中、水鏡越しの自分自身と言葉を交わす。

独白と誰何の果てに原形を留めていない蛙。

 

 

井蛙の夢想。

水鏡越しの自尊。

誰何で象る歪みきった自己像は

原型を留め切れずに嘔吐。

独白を繰り返す自己嫌悪の籠城。

倒錯を積み上げる自己弁護と焦燥。

空の青さと引き換えに知り得る孤独。

雲一つ無い澄み切った青空は

何処か深くて溺れそうになる。

 

 

薄暗い照明とつけっぱなしのテレビ。

静寂を切り裂いて流れ出す冷笑的な憐れみ。

それは私にとっての代替的な嬌声。

平穏な幸せなんて不釣り合いが故に

息が詰まる生活こそが心地の良い酩酊。

嘔吐が素面を誘う前に、

私は酔いどれのまま未来と情死すべき。

どうか嫌気がさしてしまう前に。

冷たく無酸素なこの幸せに。

どうか絶望を抱いてしまう前に。

首を絡げるその温もった手に。

 

 

 

籠城した自己嫌悪の独白だけでは

自分自身を好きになれるはずが無かった。

ボタン一つで消えてしまう所属感に

虚しささえも感じてしまうこともあった。

「自分とは何だろうか」との問いは

人間たらしめるものであり

自然に誘発される感情でもあるはずだ。

そして自分自身とは一面的なものではなく

関わりの数だけ自分自身が存在するもの。

なんて気付かせてくれるのは

何気無い気の抜けた一言だったりもする。

関わりの中で誘発される感情は

決して良いものばかりではないけれど

しっかりと自分自身の言葉で

自分を形作っていきたいな。

たとえそれが独白だとしても。

 

 

積もりそうも無い降雪はせめてもの悪足掻きに

黒いコートを白色に染めては足跡を残す。

徐々に寒色を纏い始める身体に

寒空の温度を知り

肌色に触れて溶けゆく粉雪に

いくつか僕の体温を知る。

午前10時過ぎ。

 

 

不眠症の恋文は当てにならない。

そんな今日におやすみ。