夢の中でも踊れない子でした

 

 

 

 

夢現に見入る支離滅裂な映像は

一切の疑いも無しに流れてゆく。

その中での僕は殺戮者。

後ろめたさを抱きながらも

自白しない臆病さと狡猾な居直りは

現実の僕のそれと何ら変わりはしないのだろう。

 

明晰夢のような自由な世界でも

僕はきっと踊れない。

夢の中でも

僕は僕のままだった。

 

 

目覚めの悪い夢から覚めて

誘発される安堵感と自己嫌悪。

不幸中の幸いか、

記憶に残る夢の内容は実際に起きたことがない。

 

自慰で性愛と純愛の違いを確かめる。

置き去りになったのは倦怠と自棄観。

どうでも良かった、と再び性愛に傾倒する。

 

「あの頃は良かった」と吐き捨てた言葉。

曖昧な思い出に縋って

言葉も感性も啄んで夢想。

亡霊との逢い引きに

過去を愛好するネクロフィリア

君は歪んだ倒錯者。

烏は不燃ゴミには群がらない。

 

 

貴重な休日を過ごすためには計画的に生きなければ

と早朝より夕食の買い出しに出る。

外の空気は冷え込んでいて

車のフロントガラスは凍っていた。

その美しさを共有したいと写真を撮るが

虚像では物足りずにすぐさま消去。

結局視界不良の煩わしさしか残せなかった

そんな自分を責める日曜日。

 

 

計画的にと言いながらも特に予定は無い。

なんとなくバームクーヘンを作ってみた。

材料費と労力を考慮すると

出来上がったバームクーヘンを買った方が

断然お得なはずなんだけど。

 

 

そうやって午前中が終わる。

 

12時を過ぎると

明日が迫ってくる実感が増す。

そうやって備えに費やしてしまう休日を

休日と呼べない。

明日なんて来なくていいのにと

縋る日曜日のモラトリアム。

 

 

 

 

 

 

落日のうら寂しさ、見栄っ張り

 

 

 

大学時代の級友が結婚したらしい。

間接的に届く報せに知らないとは言えず

忸怩たる想いに駆られた見栄っ張りは

その場で不自然に取り繕った。

結婚しようがしまいが

干渉の無い間柄ではあったのだけれど

「友達は多い方が良い」のだろう。

 

夜勤明けの朝。

休日にアラームは鳴らない。

 

午前8時。

カビ臭い浴室の清掃。

流水の安心感は正義なのだが

途絶えた時の不安感も運んでくる。

綺麗になった浴室も汚したくなくなる。

 

洗濯物がよく乾きそうな天候に

洗濯物を干さなくても良い免罪符を探す。

 

昨日の乱層雲は何処へ行ったのだろう。

雲一つ無い青空は

何処からやって来たのだろうと

それぞれの足跡を探す。

 

幼い頃の爪を噛む癖と指遊び。

親指のささくれが気になって

干渉すればするほど

見窄らしくなるのは分かっているのに

止められない衝動。

丁寧に生きたいとは思っている。

ネイルアートで綺麗に整えられた

あの娘の爪先を見習いたい。

 

予定通りの12時過ぎ。

久しぶりに両親に会った。

いつもと変わらない笑顔で迎えてくれたが

「いつも」とは

いつからいつまでのことなんだろう。

僕はと言えばいつだって子どものままだ。

 

未来の話。

背伸びからの展望。

何処まで見えているんだろう。

何が見えているんだろう。

 

背伸びした理想論では草臥れて

漠然とした未来に浮き足立つ。

地に足着けて生きねばならない

と言いながらも

自己愛は未だに背伸びをしたがっている。

わがままメンタル。

 

落日は暖かいけれどうら寂しくて

何処かへ逃げ出してしまいたくなる。

今日が終わるから寂しいのか

明日が始まるから悲しいのか

どちらにしてもうらぶれた気持ちになる。

明日も落日はやって来るけれど

今日の落日を大事にしまっておくことは

出来ない。

墜落するオレンジの空が

色濃く染まるにつれて何処か感傷的になる。

そんな美しさもあるのだけれど。

 

 

だなんて見栄を張る

 

黒い影が背丈を越して

淋しさが登る17時。

 

 

 

 

地続きと積雪、そして雪解け

 

 

 

暖房で乾いた一室に仄明るい陽光が差し込む朝。

中途覚醒を繰り返した断続的な睡眠に

熟眠感は乏しく、後朝の睡魔は僕に縋り付く。

寝ぼけ眼で見つめたケータイは充電切れ。

時刻はまたもや不明。

 

「雪が積もってる」と聞き慣れた彼女のはしゃぐ声。

今年一番の積雪に雪景色が輝く午前7時過ぎ。

確かな地続きの今日。

ごみ捨て場に向かう途中で

未踏だった雪の道に足跡が残る。

 

朝食に一昨日の残り物を平らげた。

お米がちょっと硬かったけれど。

特に予定の無い午前を過ごす。

 

午前11時

ボディソープが無いことを思い出して外に出る。

近所の薬局には高齢者と小さい子供連れ。

お値打ちだった詰め替え用のボディソープを2つ、

昼食用のカップラーメンとコーラを手に持ち

レジへと並ぶ。

 

先日何処かで見た

「便利なサービスは利用しなきゃ損」

という言葉に感化されて

Mサイズのレジ袋の購入を希望したものの

Lサイズのレジ袋を渡されてしまった。

「まぁいいか」と思いつつも

塵も積もればなんとやら。

袋に詰めた身体的に不健康な同胞を見つめながら

惰性と飲み込んだ言葉たちを積み重ねている気がした。

 

 

一昨日は愛犬の6歳の誕生日だった。

人間でいう40歳くらいの年齢らしい。

正直素直に喜べなかった。祝えなかった。

いつかの喪失の哀しさに強く打ちのめされて

どうしても目を背けたくなった、罪悪。

積み重ねて欲しくないな。

 

昨日と自分と今日の自分の違いは何だろう。

1秒前の自分と何が変わっているのだろう。

時間ばかりを積み重ねているだけなのだろうか。

たとえそうであったとしても

今日の自分は昨日を乗り越えてきたのだろう。

昨日までの自分を積み重ねてきたのだろう。

実感は無くてもそうなのだから。

それだけを頼りにしても良いじゃないか。

積み重ねて欲しいな。

 

 

雪解け。

水溜まりに反射する冬の陽光が煌びやかで眩しかった。

 

本日も出勤。

 

 

アラームが下す判決

 

時刻も分からない暗がりの部屋で

中途覚醒早朝覚醒

下るアラームの判決。

 

早朝の恋慕。

急げと言わんばかりに鳴り響くスヌーズ音と

手放せない掛け布団。

甘ったるい蜂蜜に焦げたトーストの苦味。

アンビバレンス。

 

今日はいつもより遅めの出勤で

出勤ラッシュを終えた道路はがらんどうで不気味。

職場ではすでに忙しない様相で

抱くのは遅れてやって来るヒーローのような優越感ではなく

波に乗り遅れた気持ちで感じる疎外感。

 

普段とは異なる時間に過ごす休憩室は

秒針を刻む音さえも聞こえない静寂に満ちていた。

いや、壁掛けの時計の秒針は躓くこともなく

摩擦も感じず滑らかに進んでいた。

そういえば自宅にもデジタル時計ばかりで

秒針が鳴る時計って久しく見てないな、なんて。

 

感情的になって言いたいことが言えなかったと

泣いている女性が居た。

そういうもんだろうと慰めながら

言いたいことがあるならいいじゃないかと。

いくらでも取り戻せるじゃないかと。

 

仕事終わりの降雪。

窓越しに見る以上に吹き荒んでいて

黒いトレンチコートはあっという間に色を変えた。

 

空腹感と口渇が襲う帰路に

缶ジュース50円。

どれだけの時間と等価なんだろう。

美味しかったが。

 

夕食はファストフードの持ち帰り。

820円。

どれだけの時間と等価なんだろう。

美味しかったが。

 

あとはお風呂に入って眠るだけ。

彼女も帰りが遅かったみたいでお疲れだ。

明日は遅い。ゆっくり休もう。